"The Black Swan" で有名な Nassim Nicholas Taleb は、続編の"Antifragile" において Antifragile (反脆弱性) という概念を紹介した。
Antifragility は Randomness と Disorder を好む性質のことで、具体的には頭を切られるたびに頭数を増やすギリシア神話のヒュドラーや、筋トレをして筋繊維を破壊した後で超回復することによってより強くなる筋肉などが挙げられる。怪我をしても自己修復機能がある猫や獣は Antifragile であるが、故障したら自ら直ることはない洗濯機や舗装された道路は一方 Fragile である。
単に Randomness に対して耐性がある Resilient とは一線を画している。Antifragile とは、むしろ乱雑さやランダムなイベントによって好ましい結果を得ることができる。逆に言うと、本来 Antifragile な性質を持つシステムから乱雑さやランダム性を奪ってしまうと、かえってその力を奪ってしまうことになる。例えば、子どもは本来 Antifragile である。失敗や試行錯誤を通じて新しい技能を獲得していく。そこで親や周囲の大人が必要以上に気を配り、先回りをし、怪我や失敗をしないような予防線を張ってしまうと、子どもは自ら学ぶ機会を失い、大人になった頃には自立する力を十分に養うことができなくなってしまう。
システム全体が Antifragile であるためには、そのシステムの部分・成員の犠牲が必要であるという指摘も興味深い。スタートアップ経済が全体として成長するためには、リスクをとっている個々の会社や経営者は一定数失敗する必要がある。その失敗が他者に共有され、学びとして活かされ、更なる成長につながり、経済全体としての Antifragility につながる。
Antifragile であるためには、最悪の事態に備えて冗長性を有している必要がある。人間が目や腕・足や腎臓を二つ持っているのは、片方が故障しても生存確率を高めるためである。自然というシステムが長い間稼働してきたのも、複数の冗長性のレイヤーを兼ね備えているからこそである。
非連続的で、予測不可能なイベントから、我々は学び続けることはできるのか。歴史から学び、同じ過ちを繰り返すことなく人類は発展を続けていけるのか。一筋の光をもたらしてくれる、そんな本である。