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Subtractive Knowledge

"Antifragile" において Subtractive Knowledge という概念が提起されている。知識とは、足し算によってではなく引き算によって拡充していく、ということだ。

どういうことか。知識というのは、より多くのことについて知り、歴史や書物から学び、蓄えて増えていくものというイメージがあるかもしれない。しかし、より多くのデータがあるということは、それだけより多くの間違いが含まれているということだ。そこで、間違った知識を削っていくことによって、より正しい判断をできる知識の源泉が出来上がっていく。

具体例で考えてみよう。「正しいお米の炊き方」とは何か。鍋で炊くべきか、炊飯器で炊くべきか。水の量は多めにするべきか、少なめにするべきか。炊けた後に蒸らす時間を置くべきか、否か。考えるべき要素は多く、正しさを一意に決めるのは難しい。一方で、「間違ったお米の炊き方」というのは分かりやすい。水ではなく牛乳を使ったら間違いなく失敗するだろうし、鍋ではなくオーブンで炊いたら全く別の料理が出来上がってしまうだろう。

知識とは、ミケランジェロが大理石の塊からダビデを掘り出していく過程に通ずるところがあるのかもしれない。正しい知識を覆い被さっている大量の誤った言説を、一つ一つ丁寧に取り除いていく必要がある。歴史と書物というのは、大理石を削る彫刻刀であり、友人との知的な語らいや議論は、石の破片を削り出す金槌なのかもしれない。

November 13, 2023

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