英国でソフトウェアエンジニアとして転職活動を行った際の記録です。2021 年 10 月に、丸四年働いた Cookpad を退職し、同年 11 月からは、グラフデータベースを作っている Neo4j に入社します。転職活動では、1ヶ月半費やし、13 社に CV (レジュメまたは英文履歴書)を提出し、結果 4 社からオファーを獲得。
これから海外でエンジニアとして挑戦したい日本人の役に少しでも立てれば、という思いで公開します。日本人が外国人として海外に住むには、現地人が体験する以上の難題と文化的障壁、Visa の問題、そして経済的コストを払う必要があります。
そういったハードルを超えて海外に挑戦したいという人は応援したい。きっと今まで自分を手助けしてくれた人も同じ気持ちだったのではないかと思います。
そこで、どうしたら貢献できるのかを考えてみました。自分が今までどう他の人の助言や情報公開に助けてもらってきたかを振り返ってみました。自分の経験上、リアルな体験談というのは、モチベーション向上と情報提供の観点から役に立ったことを思い出しました。そこで、公開できる範囲での可能な限り詳細な活動記録を書くことにしました。
特に「モチベーション向上」については、失敗も含めた他人の経験談を聞くと、「意外と自分でもできるのでは?」「この人のやり方を参考にしたら自分も到達できるのでは?」というイメージに繋がりました。
この記事で紹介している手法は「べき論」ではありません。読者それぞれの経験、技術力、モチベーション、タイミング、市場動向、企業側からの需要によって、最適な手法は変わるはず。そして、その要因の多くは自分でコントロールできる範囲を超えているもの。あくまで参考程度と捉えた上で読んでください。
新卒でリクルートにソフトウェアエンジニアとして入社。SaaS 事業を営むベンチャー企業に転職しシード期における開発プロセスを経験した後、2017 年 10 月に Cookpad Japan に中途入社。広告事業チームで広告配信システムや入稿システムの開発に従事。Tech Lead を経験した後、2020 年 3 月に Cookpad UK に転籍。Senior Site Reliability Engineer として、ログ基盤の構築や Apache Kafka の運用に従事。その他詳細は LinkedIn にて。
自分のスキルと経験(= 需要)が、いかに相手の要求(= 供給)とマッチしているかが何よりも大事です。需要と供給のバランスは、資本主義社会の基本原理です。
その 「需要」の部分について書いてあるのが Job Description。あなたがいかに優秀な営業マンでも、営業のスキルを必要としない財務部では雇ってくれません。あなたがいかに優秀な SRE でも、フロントエンジニアを募集しているチームでは雇ってくれません。需要と供給が釣り合っていないからです。
憧れの有名企業だからとか、業界が一緒だからとか、軽い気持ちで応募してもひっかからないとしたら、おそらく自分のスキルと経験が、相手の期待する要件に合致していない。マッチングの問題だと考えられます。
Job Description を丁寧に読み込むことで、行間に隠された多くの情報を獲得することができます。チームの文化、求められる働き方、会社の方向性、必要なスキル、プロダクトの方向性、職種のレベル。
「数打ちゃ当たる」でとりあえず応募する厚顔さも時には必要ですが、まずは相手が何を求めているのか、相手の目線を理解するつもりで、丁寧に Job Description を読んでいくことをおすすめします。
CV といえば、最初のスクリーニングだけに利用されるだけでしょ?それは残念ながら間違いです。一度スクリーニングを通過した後、候補者の情報は、各ステップの評価メモだけでなく CV とともに流れていきます。
数多くの候補者を面接することで忙しい Hiring Manager ともなると、面談の前の五分間を使って軽く CV を眺めるのが精一杯のケースもあります。実は CV というのはインタビューのどのタイミングでも利用される、自分の「顔」となる一次情報なのです。
非ネイティブであれば、ぜひともネイティブに推敲を依頼すると良いでしょう。CV を有償でレビューしてくれるサービスもあります。友人や家族に見てもらい、スペルチェックを修正するだけでも印象は大きく変わります。
体裁や見た目に気を使うのは、決して自分を必要以上に大きく見せる自己満足の行為ではなく、一定のマナーをわきまえてのぞむエチケットのようなもの。爪を切って手を洗って、ドレスコードを守って晩餐会に参加するようなものです。
インタビューというのは、相手が自分を評価するだけの場ではありません。自分が所属することになる相手(会社とチーム)を評価する場でもあります。
面談の最後に設けられる Q&A の時間は、その評価材料を増やすための貴重な時間。会社の文化から福利厚生、チームの雰囲気や使用技術、将来の展望や現状の課題など、相手を理解するために必要なことはなんでも聞きましょう。
私の場合、どの会社に対しても聞きたいベースとなる質問定型文を 30 問程度用意しつつ、当日の思いつきや流れで平均して 4 つから 5 つの質問をしていました。
私の場合、話が盛り上がって 20 分近く時間がオーバーすることもありましたし、話のツーカーが通じずお互い「あれ?」という雰囲気が流れた回もありました。入社した後で働くことになる将来のチームメンバー「候補」と、そもそも肌感が合うかを知ることができる貴重な機会と捉えると良いでしょう。
特に今のコロナの状況下では、全てリモートでオファーが決まることも多いです。その場合、いかに面談過程で密なコミュニケーションを取れるかどうかも、入ってからのギャップを最小限に抑えるための術の一つかもしれません。
アドバイスを一つ。Q&A で抑えておきたい点は、フェーズに応じた質問をすることです。
最初におそらく話すことになるリクルーターの人に現場で使われている使用技術の詳細について聞いてもおそらくわからないでしょう。技術面談で出てくる現場のエンジニアに「プロダクトの今後三年間の展望はいかに?」と聞いてもありきたりの答えしか得られないでしょう。面談の終盤に話すことになるであろう CEO/CTO や Director of Engineering の人に初手の質問をしても今更感が出てしまうでしょう。
最終的に、グラフデータベースというデータベースの一種を作っている Neo4j という会社に転職することに決めました。職種は今と同じで Site Reliability Engineer で、Neo4j Aura という、クラウドで提供しているマネージドサービスの裏側に行きます。未上場ですが、最近シリーズ F で 3 億 2,500 万ドルの資金調達をおこなっており、数百人規模のスタートアップという規模です。
データベースを作っている会社にしたのは、自分のソフトウェアエンジニアとしての限界を突破したかったからです。特定の技術やミドルウェアにどっぷり浸かってみる経験を積みたいと長い間思っていました。
幅広い技術をサービス開発に応用し、ユーザーに価値を提供したいという気持ちを抱えつつも、それ以前にソフトウェアエンジニアとしての底力を上げる必要がありました。そのため、グローバルで広く使われる大規模のシステムを、ソースコードの見れる環境で、運用も合わせて当事者として関わることを決めました。
海外に転籍してから、本当に数多くの人にお世話になりました。異国の地で新しい生活を始めるというのは想像以上に大変でした。ですが、同時期に渡英した同僚や、日本から送り出してくれた元チームメンバー、受け入れてくれた Global 側のメンバーなど、数多くの人の理解と助力によって実現できました。
今回の転職の報告をきっかけに、以前お世話になった上司や同僚と久々に話す機会に恵まれました。また一緒に働きたいと思う人がいるというのは、辛いプロジェクトを乗り越え、前向きにキャリアを構築し、将来の人生を楽しみに毎日生きていく原動力になります。常にソフトウェアエンジニアとしての刺激と成長の機会を与えてくれてきた、同僚や上司に感謝をしたいと思います。
また、数多くのソフトウェアエンジニアが挑戦するアメリカと違って、日本人による日本人のための情報はそこまで数多くありません。そんな中でも、英国勤務や転職活動をするにあたって大いに参考にさせて頂いた記事がいくつかあります。この場で紹介させてください。