"Antifragile" において Naive Intervention という概念が提起されている。自然に任せておけば問題ないような場面で介入してしまうことで、かえって結果を悪化させてしまうことを指す。
「何もしない」という決断は、時に「何かする」という行為よりもずっと良い結果をもたらす。医療現場の例が紹介されており、不必要に治療・投薬をしてしまうが故に逆に患者の健康を中長期で損ねてしまうことが指摘されている。医療現場における典型的な Naive Intervention の例だ。人間の体は、Antifragile にできている。緊急を要する治療はさておき、そこまで悪化していない症状を治療するのに、自己修復に任せた方が良いのか、人的介入をした方が良いのかは、考えるに値する問いだ。
子育てにおいては、どのような Naive Intervention が考えられるだろうか。子どもは、失敗や怪我を含めた経験を通じて成長する。危険予知能力やリスク管理スキルを、トライアンドエラーを通じて獲得していく。もしここで、親や周りの大人が、子どもが自らの失敗経験から学ぶ機会を先回りして摘んでしまったら何が起こるだろうか。ストレス要因を対処できない脆弱性を克服できない大人になってしまうだろう。
一切の介入を否定しているわけではない。緊急を要する治療行為は、人の命を助けるメリットの方が大きい。メリットとデメリットに非対称性があり、この場合はメリットを享受できる可能性が高い。しかし、そうでない場合の治療行為は、医療事故や投薬の副作用によるデメリットの方に非対称性がある。
効果のある Non-Naive Intervention とは、ブラックスワンのリスクに対する露出を制限するような介入である、と主張されている。
What should we control? As a rule, intervening to limit size (of companies, airports, or sources of pollution), concentration, and speed are beneficial in reducing Black Swan risks. (p119)
子育てにおけるブラックスワンのリスクと、Non-naive Intervention の具体例について幾つか考えてみた。
Black Swan | Non-naive intevention | What to control |
---|---|---|
交通事故 | 交通量の多い道路ではなく公園で遊ばせる | 交通量 |
虫歯 | グミや人工甘味料の入った製菓ではなく果物を食べる | 糖分摂取量 |
転落事故 | ベランダではなく部屋の中で遊ばせる | 地面との高さ |
誘拐・犯罪 | 人混みの多い繁華街ではなく、人混みがまだらな場所に行く | 行き交う人の数 |
大火傷 | ガス料理は避けるが、電気調理器具は使わせる | 温度 |
親として一番避けたいのは、子どもの可能性を摘むことである。"Antifragile" の言葉を借りていうなら、「子どもという Antifragile なシステムが、ストレス(失敗、小さな怪我)から学び、自己修復する過程を経験させることで、ブラックスワン(大怪我・事故)が起きても大きな問題にならない」と言えるだろう。