London Tech Talk の収録・公開を始めてから、およそ一年半が経過した。現在考えていることを言語化してみたい。
London Tech Talk は、コミュニティとして機能している。これは意図して作り上げてきたものであるし、これからもこの考え方を中心に運営していくだろう。Podcast ごとに様々な形式があり、異なる目標のもと運営されているだろう。London Tech Talk の場合は、技術に興味がある人材が定期的に集い、意見交換や議論を通じて、お互い高め合える場ができつつあると感じている。
Discord では Book Club を中心として定期的に技術ネタが集まってくる。過去の Book Club で会話した内容をもとに、参加者が書いたクオリティの高いまとめ記事や関連記事が投稿されることもある。同じ情報は他の SNS でも取得できるのだが、顔を知っていて信頼できるメンバーと議論になりやすい、という点がこの上なく楽しい。Lightning Talk や、目的のない雑談リモート飲み会も過去には開催された。何より大きいのは、他のゲストのチャレンジを応援できる空気感が醸成されつつあることだ。コミュニティを作り上げたかった第一の目的が「ゲスト同士の交流」なので、この点は大きい。
Podcast がコミュニティとして機能しているとは、ホストとゲストとリスナーの三者の間で交流がある状態のことを示す。質の高いエピソードを収録して、リスナーに一方通行の情報コンテンツとして届けて終わり、という形は目指していない。この形が悪いと言っているわけではなく、Podcast を通じて達成したい目標から逆算した時に、一方通行パターンは目的にそぐわない。
何よりも大事にしているのは、ゲストの方々が気持ち良く話して帰ってくれる収録を目指している。成功指標は「また収録に来たいと思ってくれるゲストの数」だと考えている。先日第八十回目のエピソードの公開を数えたのだが、流石にこの数にもなると何度も出てくださるゲストの方々も増えてきた。
ゲストの方々それぞれに、強みがあり、葛藤がある。悩みがあり、ストーリーがある。越えようとしている壁や、目指している目標がある。それに伴走する形で成長していける Podcast になりたいと考えている。そして、そんなゲストの方々の強みとポテンシャルを最大限に引き出し、化学反応が起きるように様々な角度からの意見が飛び合い白熱する、そんなエピソードを収録できた瞬間が、至上の喜びにつながる。
そんなゲストの方々と作り上げる収録のパターンが最近見えてきた。まずは、ゲストによる持ち込み企画。本記事の執筆時点ではまだ公開されていないが、BlueSky の論文に沿って分散システムの裏側を紐解いたエピソードや、リーダーシップとマネジメントの狭間での葛藤、海外・外資環境での英語力の鍛え方のエピソードは、全てゲストの方が提案してくれたコンテンツである。僕が頭を捻って考えるよりも圧倒的に面白く、需要があり、話していて楽しいトピックばかりとなっている。これは、一人では達成できない。
次に、ゲストの方が他のゲストを呼んでくれるパターン。これまた最高である。一度 London Tech Talk に出演して雰囲気を掴んでくださった上で紹介してくれているので、価値観や雰囲気・方向性が合致するケースばかり。お世辞抜きで、ゲストによって支えられている London Tech Talk である。
もう一つ心がけているのは、リスナーの方々が気持ちよく聴いてくれる収録を目指している。成功指標は「来週の収録公開を楽しみにしてくれるリスナーの数」だと考えている。僕らのエピソードが、キャリアをポジティブな方向に変えるきっかけになったり、仕事で活かせる学びになったりしたら、嬉しい。
それから、リスナーの方々からの意見やフィードバックがもらえるようになってきた。SNS でつぶやいてくれることもあれば、Google Form を通じて意見やエピソードの提案をくれる。リスナーの方々とも交流していける場にしていきたいと思っているので、これは大きな第一歩だ。
シンプルに率直な感情を吐露すると、フィードバックを貰えるというのは最高に嬉しい。ポジティブなフィードバックは、自分がチャレンジして良かったと背中を押してくれる。ネガティブなフィードバックは、自分を謙虚な気持ちにさせ、新しい学びを与えてくれる。興味がない人は無視をするだけである。すべて Feedback is Gift という価値観で生きている。
ホストが三人体制になって、とても安定した運営ができるようになってきた。運営に迷った時に相談できる仲間ができたのは、なんと言っても頼もしい。
去年から参加してくれている Asai 君は、向上心が高く、人を巻き込む力も高く、スイスに渡航したての人生で一番忙しい中でも一生懸命に頑張ってくれている。そんな姿が一部のファンリスナーの方にとっても励みになるようだ。彼を応援しているのは、もはや僕だけではない。
今年から参加してくれている Kaz さんは、僕にとってはソフトウェアエンジニアとしても、海外在住歴としても大先輩であり、常に指針となる存在だ。お互い歳のそこまで離れていない子供がいることもあり、教育方針や海外在住者としての将来設計など、包み隠さず相談できる仲間ができたのは心強い。
今後もホストの協力体制は変化していくだろうが、少なくとも現時点で最高にバランスの取れたチームとなっているのではないだろうか。
逆に目指していない世界観についても言語化しておこう。
再生回数やリーチ数は目標に置いていない。一万回再生されるより、世界のどこかのたった一人のリスナーにとって大きなポジティブな影響を残す方が重要である。再生回数を追い求めると、元々目指している世界観とも対立することになるので、距離を置いている。他の大御所 Podcast と比べて再生回数も桁違いで少ないだろうし、それらとの競争を避けるニッチ戦略だろうと思われる方もいるかもしれない。そうかもしれない。しかし、それでも良いと思える信念の萌芽のようなものは出来上がってきた。
以前、Asai 君が収録の途中で「失敗ができる Podcast を作りたい」と言ってくれた。どういうことかというと、例えば Book Club の運営に興味がある人がチャレンジしてみたり、人前で話すことに苦手意識のある人がゲスト出演にチャレンジしてみたり、個人開発したいがなかなか時間が取れない人が開発パートナーを見つけて一緒にチャレンジしてみたり、といったことである。
僕はそれ以降このキーワードが引っかかっていて、頭から離れない。とても良いキーワードだと思う。失敗というのは学びの源泉であり、成長の第一歩である。このキーワードをどうしたら実現できるか、頭を悩ませている。
失敗を受け入れる土壌と雰囲気がまずは必要だろう。それだけではなく、失敗した時に建設的な意見をくれる仲間やメンターの存在も欠かせない。ネガティブなフィードバックも忌憚なく言える信頼関係も必要だ。そして、失敗し続けることをよしとせず、バーを上げ続けていける向上心、静かな情熱を燃やすパートナーの存在も必要だろう。
そう考えると、Podcast というのは僕にとってツールでしかないことに気付かされる。Podcaster になりたかったわけではなく、この発信力とコンテンツ力を活かして、そのような人たちと触れ合う場を作っていきたい、というのが向かう先なのではないだろうか。冒頭に述べた、Podcast がコミュニティとして機能している、というのは、ここに繋がってくるのかもしれない。
この記事で述べたことは、あくまでホストの一人である僕自身の意見である。間違いなく Asai 君も Kaz さんも異なる意見や意図・目標を持っているであろうから、この記事を叩き台にして、意見をもらいに行こう。Feedback is Gift である。