Runnin' in the rain

私は、雨の日のランニングが好きだ。

もちろん、晴れの日に走るのも気持ちが良い。暑過ぎない季節、そう、春か秋に、そよ風を感じながら走るのも好きだ。人通りの少ない時間帯を狙って、颯爽と街中を走る時間も好きだ。早朝に昇りくる太陽と競争するように走る時間も好きだし、夕焼けを追いかけながら帰宅する人たちに混じって走る瞬間も好きだ。それでもやっぱり、雨の日のランニングは、好きだ。

なぜなのだろう。寒いし、視界は遮られるし、靴だって汚れる。足が疲れてくる後半になると、どうして雨の日に走ろうと思ったんだろうという気にさえなってくる。なかなか体は暖まらないし、滑って転ぶリスクだってある。軽快な走りをしようと思っても泥水に足を取られて、リズムが崩されて悔しくなる。

それでも、いやだからこそ、走り終わった後に浴びる温かいシャワーに包まれると幸せな気分に浸ることができる。走り切ったことに対する自己満足を、誰に誇示することもなく、一人シャワーを浴びながら感じている瞬間に、些細な喜びを感じる。その後で靴を磨いたり、洗濯している瞬間も、面倒だなとは思いながらも、結構好きなのかもしれない。今日も結構汚れちゃったなと呟きながら、また雨の日に走ろうか、という気持ちがむくむくと起き上がってくる。

雨の中を走る、という行為自体ではなく、この事後の達成感に酔っているのかもしれない。温かいシャワーのありがたみを身に沁みて感じるために、あえて泥だらけになりながら外に勇気を出して出ていくのかもしれない。美しい青空の下に走り出すのは最高の気分だけれども、終わった後に感じる小さな成長の萌芽に、惚れているのかもしれない。

人生だって、よく雨の日になる。地震は起こるし、火事は起こるし、感染症だって突然脅威を振るったりする。戦争だって終わらないし、経済だって不況になるし、国だって転覆する。身の回りでもそうだ。仕事がうまくいかないかもしれない。人間関係で悩むかもしれない。食中毒になるかもしれないし、何か難病を抱えるかもしれない。貯金が底をつくかもしれない。テストに落ちるかもしれないし、好きな歌手のコンサートチケットだって手に入らないかもしれない。

でもきっと、晴ればかりの毎日って、つまらないと思う。雨の恵み、とはよく言ったもので、雨が降るからこそ地は固まり、貯水池に生活用水は溜まり、美しい山河は形成され、人は雨が晴れた後を望むようになる。雨はいつか止むからこそ、その来たる将来に希望を抱く。その瞬間に、生きた心地を感じる。その刹那に、生きる意味を見出す。Gene Kelly だって "Singin' in the Rain" で歌っているではないか。

I'm singing in the rain just singing in the rain
What a glorious feeling i'm happy again
I'm laughing at clouds so dark up above
The sun's in my heart and i'm ready for love

雨の日をどう感じるか、ひいては悲観的な事象をどう解釈するかは、その時の私次第。雨の日を楽しめたら、きっと楽しいと思うよ。

2024-05-09