北米圏やヨーロッパ圏でのソフトウェアエンジニアの転職に、給与交渉は避けられません。この記事では、私の給与交渉の経験をお話しします。NDA という観点からはもちろん、プライベートな情報にもなりますので、絶対額及び企業名がわかるような情報については書きません。それ以外の面で可能な限り実態に近い話をします。
ソフトウェアエンジニア市場が過熱気味であることから、転職ノウハウを得ることで利益を得る業界もあります。どの業界を受けるかどうかで技術力に関わらず給与テーブルが決まる、といった実態もあります。ソフトウェアエンジニア側が給与交渉をすることがほぼ前提となっていることから、企業側も「給与交渉される前提で少し低めに出す」というスタンスで構えている場合も実際としてあります。
ですので、知識として給与交渉の実態を知っておいた方が有利に働くこともあるでしょう。お金に関わるセンシティブなトピックなので、アドバイスの一部が切り取られて一人歩きすることも多いでしょうが、海外市場にソフトウェアエンジニアとして挑戦する日本の方が、他の国の人々と対等に挑戦できるために、この記事を書きました。
給与テーブルは、国と地域、業界、シニアリティ、会社のステージによって大きく変わります。同じ技術力でも、絶対額としていくらもらえるかはポジショニングによって変わります。
この記事では給与交渉による変動額、及び成功・失敗となった理由について書いていこうと思います。同じ経験談でも、国や地域が違えば通用しないことも当然のようにあります。本記事の情報の前提となっている条件については以下の通りです。
まずは、SRE としてオファーを受けた W 社の例を紹介します。
W 社は上場済みのフィンテック企業で、ユーザー数も結構多く将来有望だと感じている魅力的な会社でした。インタビューで出会った面接官との相性もバッチリ。結果としてオファーを辞退したのですが、今でもまたいつか受けてもいいかなと思っているような会社です。
ただし急成長に伴って年次の短いメンバーも多く、リクルーターは入社して数ヶ月というところ。その後カルチャーがどう変わっていくかというのも成長戦略に大きく関わってきそうでした。
最初にオファーをもらったパッケージは、Base Salary と RSU を合わせて私が提示した希望額ピッタリのものでした。ただし、オファー面談の場で「もし気に入らなければ教えて欲しい。できる限りのことはする」というような趣旨のコメントを言われたので、給与交渉前提でのオファーだったのかもしれません。
この段階ですでに他社からのオファーをもらっていた私は、それを中心に給与交渉をしました。
以下は実際にリクルーターに送ったメールの冒頭抜粋です。この後に細かい理由、希望する次のアクションについて書きました。
I wonder if this offer is open for the discussion around the base salary? More precisely, would you consider increasing the base salary part (£xxx).
この後、給与交渉面談が開かれ、リクルーターと Hiring Manager を含めた三社での面談を行いました。
結果として、Base salary として +£10K アップしたオファーを提案され、更に Hiring Manager から30分にわたる惹きつけ面談が行われました。年間にして £10K は大きな差です。かなり惹かれましたが、より魅力を感じていた他の企業があったため、残念ながら辞退させていただきました。ここまで時間を割いてくれたインタビュアーには感謝しています。
次の例は、世界規模でサービスを展開している T 社です。Database Reliability Engineer (DRE) に近しいポジションでのオファーをいただきました。
この企業も、とある理由からオファーを辞退せざるを得なかったのですが、長い間気になっていた企業で、今回オファー面談まで対話しカルチャーを理解できた経験は、とても大きな収穫でした。
複数回の技術面談を経てオファーをもらった時、実は希望する額ではありませんでした。正確にいうと、私は希望額としては「Base salary として £xxx 以上、RSU や Stock Option による増分は気にしていない」という希望額を提示していました。
最初にもらったオファーは、RSU と合わせると初期の希望額を大きく超えるものであったものの、Base salary の部分が希望に沿わないものでした。
この段階では他社からのオファーをもらっていなかった私は、以下の観点を中心にオファー交渉に臨みました。
T 社の場合はオファー面談はなく、全てメールのやり取りで交渉が完了しました。
結果として、Base salary として +£5K アップしたオファーを提案されました。これは、初期に希望した希望額ピッタリです。また、初期に提案されていた RSU 額には変化がないので、トータルとして +£5K のアップでした。RSU と Bonus が別で提示されていたので、トータルとしてはかなり魅力的なパッケージでした。そのほかにも現職にはない福利厚生も詳しく説明してもらいました。
ただし、あらゆる面から考慮して判断した結果、とある事由により残念ながらこのオファーを辞退せざるを得ませんでした。
成功例ばかりでも面白くないので、給与交渉をしたが思うように上がらなかった失敗例についてもお話しします。
P 社も、SRE としてオファーをいただきました。
この段階で他社からのオファーをもらっていた私は、基本的に以下の観点のみ中心にオファー交渉に臨みました。
結果としては、オファー額は変わることはありませんでした。もちろんフォローアップの面談が開かれ、希望額は提示できないが、ほかに他社にはない魅力的な福利厚生があること、ほかに懸念点があったら払拭したいなどの丁寧なフォローアップはしていただきました。確かにそれらの福利厚生は魅力的でしたし、この企業はそれなりに上場済みの大手企業でしたので、給与テーブルを変えるのは難しかったのだろうかと想定します。
私が振り返るに、失敗の理由は以下です。
P 社に対して、既にもらっている他社からのオファーを共有しました。ですが、この P 社とその他社は、業界も違う、ステージも違う、ソフトウェアエンジニアに対する採用戦略もカルチャーも違う企業でした。おそらく、P 社はその他社と金額では張り合えないと判断したのでしょう。そもそも給与テーブル自体も違ったのかもしれません。
参考になりましたでしょうか。給与交渉は権利だと思うので、ぜひ必要に迫られればチャレンジしてみてください。
ソフトウェアエンジニア市場の過熱気味によって、特に Seniority が高いケースで、上から目線のようなアドバイスや態度によるオファー交渉も耳にしています。給与で素晴らしいソフトウェアエンジニアを惹きつけるというのも大事ですが、それ以上にカルチャーと社会的使命が合致し、プロダクトがもたらす社会への良い影響を心から感じている同僚と働きたいものです。そういう状態で働いているのが、一番満足感も高い。
一方で、海外で生活するためにある程度の所得は確かに必要なので、知識の一つとして給与交渉を知っておくというのは悪いことではないと思います。この記事が誰かの役に立てば幸いです。