Fábrica Coffee Roasters, Guji

2024 年の年末。私は旅行で初めてリスボンを訪れていた。ポルトガルは、噂に聞いていた通り料理が美味い。イギリスではフィッシュ&チップスしかレパートリーが無いのかと嘆いていたが、ここリスボンでは、海鮮をふんだんに使った煮込み料理から、丁寧に作られたタコの付け合わせ、上品に味付けされたエイの煮付けなど、舌づづみを打つ絶品料理ばかりに出会った。食事のたびに訪れる味覚の驚きは、まるで旅の目的そのものを問い直すようだった。しかし、そんな美食の街でも、私はもうひとつの喜びを探していた。最高のコーヒーに出会うこと。それは食と同じくらい、旅の満足感を左右する要素だった。

Lisbon

そんなリスボンで私は、最高のコーヒーを求めてロースターを探し歩いていた。選択肢はロンドンほど多くはない。しかし、料理を大切にするリスボンの人々が営むロースターには、きっと素晴らしい香りが閉じ込められた美しく香ばしい黄金の粒が待っているのではないか、そう期待させてくれた。

リスボンの石畳を踏みしめながら、ようやく辿り着いた Fábrica Coffee Roasters。その店の扉を押し開けた瞬間、異国の空気がふわりとコーヒーの香りへと変わった。旅の予期せぬ発見は、しばしば人生の記憶に鮮烈な印象を刻むものだ。エチオピア産ナチュラルプロセス "Guji" は、そんな記憶を凝縮したような一杯だった。

Guji flatwhite

Guji を口に含んだ瞬間、まず感じたのは鮮やかな果実の酸味。まるで朝露に濡れたベリーをかじったときのような瑞々しさが舌を包む。それは単なる酸味ではなく、甘やかさを伴う複雑な層を持つ味わいだった。酸味が引いた後に残るのは、芳醇な果物を想起させる滑らかな甘さ。どこか余韻を引くようなその甘さは、思索の余白を与える静けさのように心を落ち着かせる。

香りはまさに華やかだった。カップから立ち上る湯気に混ざる花のような香りは、まるで風が運んできた花束の匂いを思わせる。そこにほんのり果実の甘さが重なり、飲むたびに印象が変わっていく。まるで旅先で次々と新しい風景に出会うように、香りが私を引き込んでいった。

Guji のシンプルでありながら奥深い味わいに惹かれた私は、迷うことなくロースター仕立てのフレッシュな豆を購入した。知識豊かで親しみやすいバリスタが丁寧に豆の香りを嗅がせてくれ、その瞬間、選択に間違いはないと確信した。ダークロースト特有の苦味が際立つ力強いコーヒーではなく、繊細でフルーティーな酸味が楽しめる、限りなくシナモンローストに近いシティロースト仕立てのコーヒー。そんな一杯を求める人のために用意された特別な豆だった。

Guji package

イギリスの自宅に戻った私は、まるで待ちに待ったプレゼントを開ける子供のように、キャリーケースから Guji を探し出した。お湯を沸かし、コーヒーカップを温める間、慣れた手つきでミルを準備する。そして包装パックを開けた瞬間、手が止まった。部屋いっぱいに広がるフローラルな香りが、リスボンの記憶を鮮やかに呼び戻した。その芳醇さに一瞬、淹れるのが惜しいとすら感じてしまうほどだった。

淹れ方には、Hario V60 Double Mesh Metal Coffee Dripper を選んだ。金属フィルターは紙と違い、コーヒーオイルを余すことなく抽出し、豊かなボディを感じさせる。Guji の個性を最大限に引き出すために、挽きたての豆を丁寧に蒸らし、湯を細くゆっくりと注いでいく。この一連の動作は、まるで儀式のように心を静め、豆と向き合う時間をもたらしてくれる。

一杯のコーヒーがここまで多くを語ることができるのはなぜだろう。旅で出会ったこの豆は、単なる飲み物ではなく、時間や空間を超えて記憶を呼び覚ます触媒となる。リスボンのあのカフェで味わった空気や会話、窓の外に広がっていた光景。それらが一口ごとに蘇り、日常の隙間に小さな非日常を差し込んでくる。

Guji bean

Guji は、旅の余韻そのものだ。遠く離れた場所から運ばれたこの豆が、ここで新たな物語を生む。旅先の発見がこうしてカップの中で新たな表情を見せるとき、私たちはただの味覚以上のものに触れている。まるで時を超えて過去と未来をつなぐ小さな儀式のように、この一杯は今日も私の時間を満たしてくれる。

Cofee Note Details
Region Guji, Ethiopia
Process Natural
Roast level City Roast (Light Roast)
Taste Citrus fruits, floral, peach
2025-01-04