Kalita, Coffee Dripper Toll Brown

イギリスの冬は、曇り空と冷たい風が日常を覆う。そんな日々の中で、一杯の温かいコーヒーがどれだけ心を癒すかを、僕はこの国で暮らし始めてから学んだ。そして、その大切な一杯をより特別なものにしてくれる道具を、義父が僕に託してくれた。それが、Kalita, Coffee Dripper Toll Brown だった。

義父はコーヒー愛好家で、長年勤め上げた企業を退職した後も、コンサルタントとしてアフリカやアジアを飛び回るビジネスマンでもあった。彼がいつも持ち歩いていたこのドリッパーには、彼の旅の思い出が詰まっている。イギリスに遊びにきてくれた彼が、日本帰国の直前に、僕に置き土産として残していってくれたのだった。ブラウンの温かな色味が特徴的なこのドリッパーは、義父の気さくで落ち着いた人柄を映し出しているようだった。

このドリッパーの最大の特徴は、その軽さだ。プラスチック製でわずか 50g という軽量さのおかげで、旅先にも気軽に持ち出せる。義父がアフリカのサバンナやアジアの喧騒の中でこのドリッパーを使っていた様子を想像すると、ちょっとした冒険の仲間のように感じられる。

Kalita, Coffee Dripper Toll Brown

次に感じるのは、そのシンプルさだ。Cone Size 1 の小ぶりなサイズは、ちょうど一杯分のコーヒーを淹れるのに最適だ。複雑な手順も特別なテクニックもいらない。ただお湯を注ぐだけで、豆の持つ豊かな風味をしっかりと引き出してくれる。簡単で気負わない使い勝手が、日々の暮らしにちょうどいい。

そして何より、このドリッパーは驚くほど手頃な価格で手に入る。高価な道具に頼らずとも、本当に大切なのは自分がどれだけその一杯に向き合うかだ、と僕に語りかけているようだ。値段以上の喜びをもたらしてくれるこの道具は、まさに日常に寄り添う相棒だ。

ある休日、義父が訪れた年のイギリスを思い起こしながら、このドリッパーでコーヒーを淹れた。お湯を注ぐ音が静かな部屋に響き、蒸らしの時間が豆の香りを広げていく。その一連の流れは、まるで小さな瞑想のようだった。たっぷり楽しむ一杯分のコーヒーは、ただ飲み物としての役割を超え、心を整える時間をもたらしてくれた。

僕が受け継いだこのカフェ・トールは、ただの道具ではない。義父が旅先での時間を共にし、コーヒーを通じて人生を楽しむ心を僕に教えてくれた象徴でもある。軽く、安く、そしてシンプル。それは、このドリッパーそのものが持つ特性であり、コーヒーを楽しむための基本でもある。

一杯分という小さな量だけれど、その背後には深い味わいと物語が詰まっている。このドリッパーで淹れるコーヒーが、義父との思い出やその教えを僕に静かに語りかけてくれる気がする。そんな日々を大切にしながら、僕は今日もまた一杯のコーヒーを淹れる。

2025-01-21