コーヒーの歴史が長い国々と比べると、中国のコーヒー生産は比較的新しい。それでも雲南省では近年、スペシャルティコーヒーの可能性が着実に広がりつつある。フランス人宣教師によって 19 世紀後半に持ち込まれたコーヒーの木は、長らくこの地に根付くことがなかった。しかし 1980 年台後半、ついに商業的な生産が始まり、今では独自の個性を持つコーヒーが育まれている。その流れの中で生まれたのが Old Spike の "Yunnan Aqi Badu" だ。
このコーヒーに使われている カティモール(Catimor) は、アラビカ種の カトゥーラ(Caturra) とロブスタ種の耐病性を持つ ティモールハイブリッド(Timor Hybrid) を交配して生まれた品種だ。高収量で病害に強いという利点を持ち、特にサビ病(Coffee Leaf Rust)に対する耐性が高いため、東南アジアや中国などで広く栽培されているようだ。
この品種は、アラビカの持つ繊細な酸味や甘みを引き継ぎながら、ロブスタ由来の厚みのあるボディや独特の苦味も兼ね備えている。今回の Yunnan Aqi Badu もその好例で、プラムやデーツのような果実味と、バニラやクレームブリュレを思わせる甘みが調和している。その甘く力強い風味は、繊細ながらも芯の強い魅力的な人間のように、人を惹きつける。
カップを口に運ぶと、まず感じるのは熟したプラムのような甘酸っぱさ。その奥からデーツのような深みが現れ、時間とともに変化するニュアンスが楽しい。一口、もう一口と飲み進めるたびに、なめらかなバニラとカラメルを思わせる甘さがじんわりと広がる。最後はクレームブリュレのようなキャラメリゼの余韻が心地よく残る。
この味わいは、決して偶然の産物ではない。雲南省の農家が、長年の試行錯誤を経て到達した洗練の証でもある。スペシャリティコーヒーながらにこのような複雑な風味を醸し出すのは、病害に強くも風味のある美味しいコーヒーを作ろうと努力してきた、数多くの名のない歴史に眠る英雄達の努力の結実とも言えるのではないだろうか。彼らの情熱と思いが、一杯のコーヒーに凝縮されているのだ。
コーヒーは、その土地の歴史と文化を映す鏡でもある。Yunnan Aqi Badu を飲みながら、19世紀の雲南に降り立った宣教師の姿を想像するのも面白いかもしれない。あるいは、現代の農家がこの地に新たな価値を生み出していることを思い浮かべながら、ゆっくりと味わうのもいい。
この一杯は、東洋と西洋が交差する歴史の結晶であり、新しい可能性を秘めた未来のコーヒーでもある。洗練された酸味とキャラメルのような甘みのコントラストを感じながら、僕はまたひと口、この味わいの奥深さに浸るのだった。
Cofee Note | Details |
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Region | Yunnan, China |
Process | Washed |
Roast level | City Roast (Light Roast) |
Taste | Plum Wine, Crème Brûlée, Dates |
Variety | Catimor P3/P4 |