London Tech Talk の 100 回収録記念が先日公開されました。前回はこちらの記事で Podcast を始めてから一年半の軌跡を振り返りましたが、今回は 100 回公開記念のエピソードを中心に、振り返りをします。
今回のエピソードでは、新しいエピソードの形にチャレンジしました。ゲストとリスナーの方から事前に収録していただいた音声を募集して、収録中に流す、という形での収録です。100回記念に寄せたお祝いの言葉を募集しました。
音声を収録する、というのはハードルが高いです。録音に慣れていない方にとっては、わざわざ収録の方法を調べたり、事前に原稿を作ったりと、相当時間をかけてくださったかもしれません。テキストでお祝いの言葉を下さった方もいますが、公開される文章ですので、しっかりと推敲していただいた後が見られました。本当に頭が上がりません。ありがとうございます。
このようにゲストやリスナーに負担をかけるとわかっていても敢えてお願いした理由は、やはり新しい形の収録や取り組みにチャレンジし続けたいと思ったからです。ホスト三人だけで過去を振り返ることはそう難しくありません。百回も収録していると、正直惰性の延長でも達成できてしまいます。生の声をいただくことで、それを無碍にはできない、という良い意味での緊張感をもたらしてくれました。
予想していなかった嬉しい点としては、「他者の目で評価する London Tech Talk」が垣間見れた、という点です。僕らは僕らなりに自分たちの Podcast を自己評価しています。他の Podcast と比べて努力している点、未熟な点、それを定期的に振り返りながら改善していくために、客観的な自己評価は欠かせません。とはいえ、やはりバイアスは入るものです。そんな時に、他の方がLondon Tech Talk の良いところを自分たち以外の言葉で話してくれたことによって、フィードバックループが生まれました。
そうやって頂いた感想の中で、大きな気づきとなったのは、Bookclub が London Tech Talk に占める重要性です。
多くの方が、Bookclub の魅力について語ってくれました。事前に本を読み、会社では出会わないような経歴の人たちと、業種や職種を超えて語り合う。Bookclub が終わってからは、非同期で議論が行われ、フォローアップもある。振り返り収録が数週間後に公開され、それでさらに記憶を定着することができる。Bookclub を始めてくれた Asai さんと試行錯誤しながら見つけてきたこの形が、花開いてきました。
以前の収録でも表現したことがありますが、僕らは「Bookclub の化けの皮を被った Podcast」なのかもしれません。本、という媒体を通じて、同じような疑問や問いを持つ人々を繋ぎ、謙虚に学ぼうとする素直なマインドセットで議論を行い、そこから普段の業務や自分のキャリアに活かせるような発見をする。関わっている自分としても、それが一番好きな瞬間です。
そして、この状態は、一人で本を読むだけでは決して達成できないことです。僕らが本を読んで感想を一方的に伝えるだけでも達成することができません。これは、そこに集まってくれるゲストの質の高さと情熱があるからこそです。ゲスト同士の会話のキャッチボールが、新しい気づきと発見のエンジンです。
そこに、僕らが介在する価値があるのかな、と最近言語化できるようにもなってきました。
London Tech Talk は、答えを提供する情報商材ではありません。「こうすれば綺麗なソフトウェアが設計できます」とか、「この人の真似をすれば海外で成功できます」とか、「この本を読めばキャリアと給料が爆上がりします」とか、そういったメッセージにならないように特段気をつけてきました。
そこにあるのは、問いであり、悩みであり、苦労です。ゲストが乗り越えてきた壁や障害を言語化する手伝いをさせていただくことによって、そのゲストの持つ本質と美しさに迫りたい。そのストーリーを「情報コンテンツ」として消費される商材にするのではなく、収録という現場で対話したからこその新しい発見を、一緒に探したい。それは、野心的な目標だと思っています。「1+1を3にしたい」と言っているのと同義だからです。
ゲストの経験やアイデアを発信するだけだったら、ゲスト自身のチャンネルで発信すれば良いからです。ブログを書いてもいいし、動画発信でも良い。それこそ自分で新しい Podcast を始めたって良い。でも、僕らの収録に来てくださったからこそ、何か新しい発見がある、付加価値がある、そう思っていただけるような場を作っていきたい。
だからこそ、ゲストの方々の魅力を引き出し続けるために、僕らが成長し続ける必要がある。失敗から学び、成功から再現性を見つけ出していく必要がある。London Tech Talk という場は、ホストの自分にとって強烈な成長へのモチベーションを与えてくれる場なのです。
ホスト、ゲスト、リスナーの三者が関わっている Podcast。あえて誰か主役を選ぶとしたら、それは、僕の答えは、ゲストです。これは、間違いない。この考え方は、今後絶対変わることのない軸です。会社に例えるならミッションです。個人に例えるなら信念です。
それは何故か。以前のブログでも書いたかもしれませんが、一番の成功指標は「ゲストがまた収録で話したいと思ってくれる回数」だからです。再生回数でも、リスナー数でもありません。マネタイズによる収益でも、ホストの自己満足の回数でもありません。
ですので、収録しているときは、リスナーの方々のことはあまり考えないようにしています。リスナーに受けるようなネタにしたいな、とか、バズるような内容にしたい、というような考えは、蚊帳の外です。リスナーの方、もしこれを読んでいたらごめんなさい。ですが、目の前に来てくれているゲストを最大限おもてなしすることで、結果としてリスナーの方にも喜んでもらえるような素晴らしい収録になる、と信じています。
そこに、茶道でいう「おもてなし」の精神を組み込みたいと思っています。ゲストが心から話したいと思っているトピックを話す。だから、会社の話をしたくない人には、会社の話を深掘りしたくないし、経験したレイオフを思い出したくない人には、レイオフの話を振りたくない。ゲストが話していて楽しい、というような場を作っていたい。その話を聞いている瞬間が宝だし、それがホストの贅沢です。
そこでの感動と興奮は、一期一会。その瞬間を、エピソードとして記憶に残すことができるのだとしたら、これ以上に素晴らしいことはありません。
正直、わかりません。一つだけ変わらないものがあるとしたら、「新しいチャレンジをし続ける」ということだけです。
ホストの座組みだって、また変わるかもしれない。Asai さんが今回の収録を最後に、育児に専念するためにホストを降板しました。また、戻ってきてくれるかもしれません。今一緒に運営してくれている Kaz さんは、動画配信にチャレンジしたいと言ってくれました。YouTuber になるかもしれません。
Bookclub の形も、どんどん変わっていくかもしれません。回を重ねるごとに、嬉しいことに参加者のかたが増えてきてくれているので、分科会のようになるかもしれません。
最近、僕らの Podcast がとても多くの方に聞いてくださるようになって、影響力の広がりを感じます。その影響力の広がりに怖くなって、縮小するかもしれません。逆に、それをチャレンジの機会と捉えて、リスナー層を広げるために戦略的に動いていくかもしれません。
ここで挙げたことは全て、現時点の自分が「嫌だ」と思っていることです。動画はずっと避けてきたし、参加者全員の顔の見える範囲で Bookclub を続けていきたいし、リスナー数を目標にしたマーケティングはやりたくありません。しかし一方で、コンフォートゾーンを超えた先に新しい成長の萌芽があることも自覚しています。
どのような形であっても、聞いてくれているゲストやリスナーの方との信頼関係を、大切にしたい。再生回数を、数値ではなく人一人の温かさとして捉えたい。僕にとっては Podcaster である、という事実は何の意味もありません。この活動を通じて出会った、Asai さん、Kaz さん、ゲスト、リスナー、一人一人との関係が、すでに十分努力に見合ったものをもたらしてくれました。この宝を、これからも大切にしていきたい。